1:はじめに
サイバー攻撃の高度化が進む中で、企業のセキュリティ対策において最初の一歩となるのが脆弱性情報の収集です。脆弱性を放置すれば深刻な被害につながります。適切な対策を講じるためには、まず正確で信頼できる情報をいち早く入手することが欠かせません。しかし、脆弱性に関する情報は膨大で、専門的な用語や評価指標も多く、担当者が「どの情報を優先して確認すべきか分からない」と迷ってしまうケースも少なくありません。
本記事では、脆弱性の情報収集に焦点を当て、脆弱性情報が持つ重要性や効果的な収集方法、そしてCVEやJVNなど代表的なデータベースの活用法について解説します。
「脆弱性対策を始めたいが、まず何から手をつけるべきか分からない」という方にとって、本記事が情報収集の基本を理解する手助けとなれば幸いです。
2:脆弱性情報の重要性とその影響
セキュリティ対策を効果的に進めるためには、まず脆弱性情報を正しく収集することが欠かせません。脆弱性情報は、システムやアプリケーションに潜む弱点を示すものであり、攻撃者にとっても防御側にとっても同じように価値を持ちます。そのため情報収集を怠ると、「既に知られている脆弱性」を突かれる形で不正アクセスや情報漏洩が発生し、経済的な損失や信用失墜につながるリスクが高まります。実際、過去の事例ではパッチが公開されていたにもかかわらず適用が遅れたために顧客情報が流出したケースや、ECサイトの脆弱性を放置したことで長期間にわたり攻撃を受け続けたケースが報告されています。
こうした被害は「情報を知っていたかどうか」で結果が大きく変わるのです。ここでは、脆弱性情報を収集できなかった場合に、具体的にどのようなリスクが生じるのかを見ていきましょう。
脆弱性情報を放置しておいた場合のリスク
企業が脆弱性情報を見落としたり、パッチ適用を先延ばしにした結果、実際に甚大な被害が発生した事例は少なくありません。
例えば、2024年12月にランサムウェア攻撃を受けたある印刷会社では、VPN接続機器の脆弱性や認証情報の漏洩を突かれて不正アクセスを許し、社内の複数サーバーが暗号化される被害に見舞われました。復旧までに時間を要し、業務の一部が停止するなど、事業継続に大きな影響が生じたと報告されています。
既知の脆弱性を放置すると、個人情報流出・業務停止・信用毀損・法的責任(罰則・賠償)につながる可能性が高くなります。
特に企業のIT環境では、複数のシステムやアプリケーションが稼働しているため、ひとつの脆弱性が全体のリスク拡大を招く恐れもあります。また、脆弱性情報は攻撃者にとっても同様に公開されているため、「知らなかった」では済まされないリスクがあります。つまり、防御側が早く情報を把握し、対策を講じることができるかどうかが被害の有無を分けるのです。
企業における脆弱性情報の役割
企業にとって脆弱性情報は、単なるセキュリティ関連ニュースではなく、経営リスクに直結する重要情報です。具体的には、以下のような役割を持っています。

- リスク評価のための基礎データ:CVEやCVSSといった脆弱性情報は、システムのどの部分が危険にさらされているのかを可視化し、優先的に対応すべき範囲を決定する材料になります。
- セキュリティ方針策定の根拠:情報収集を通じて得た知見は、社内のセキュリティ方針やルール作成、運用改善に直接つながります。
- インシデント対応の迅速化:新たな脆弱性が公開された際、事前に情報収集体制が整っていれば、即座に調査・パッチ適用・影響範囲の確認といった対応に移ることができます。
このように、脆弱性情報は「攻撃を未然に防ぐ備え」と「被害を最小限に抑える仕組み」の両面で役立ち、組織全体のセキュリティ向上に欠かせない要素です。
3:脆弱性情報を収集する方法
脆弱性情報を効果的に収集するには、単に情報収集するのではなく、信頼できる情報源を活用し、社内での体制やツールを整備することで、初めて実効性のある対策につながります。
信頼できる情報源を押さえる
脆弱性に関する情報は世界中で日々更新されており、すべてを追いかけるのは現実的ではありません。特に注意すべきなのは「情報の真偽」です。SNSやフォーラムには速報性のある情報が出回る一方、未検証の噂や誇張された内容も含まれます。したがって、まずは以下のような信頼性の高い一次情報源を定期的にチェックすることが基本です。
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代表的な脆弱性情報データベース
企業が効果的に脆弱性対策を進める上で欠かせないのが、脆弱性情報データベースの活用です。これらのデータベースには、世界中で報告された脆弱性情報や、その深刻度、影響範囲などが整理されており、正確な情報収集と優先度判断の基盤となります。
CVE(共通脆弱性識別子)
ソフトウェアやハードウェアに存在する脆弱性(セキュリティ上の欠陥や不具合)を一意に特定し、世界共通のID番号で管理するための仕組みです。
参照元URL:https://www.cve.org/
NVD(National Vulnerability Database)
アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が運営する脆弱性情報データベースです。CVEで識別された脆弱性情報に加え、深刻度(CVSSスコア)や影響を受ける製品、対策情報などが詳細に整理されています。企業はNVDを活用することで、国際的な脆弱性情報を体系的に把握し、優先度の高い対策を判断する基盤とすることができます。
参照元URL:https://nvd.nist.gov/
日本国内では、JVN iPediaやJPCERT/CCが主要な情報源です。JVN iPediaは国内で報告された脆弱性を整理し、具体的な対策手順や参考資料とともに提供しています。JPCERT/CCは、国内で発生したセキュリティインシデントの情報や注意喚起を発信しており、脆弱性情報を日々追跡する上で役立ちます。
JVN
日本のIPAとJPCERT/CCが運営する脆弱性情報公開サイトで、国内の利用者向けに製品の脆弱性や対策情報を提供する仕組みです。
参照元URL:https://jvn.jp/
脆弱性対策情報のデータベース(JVN iPedia)
ソフトウェアベンダー公式サイトやセキュリティアドバイザリ
各ソフトウェアベンダーが公開する公式の脆弱性情報やセキュリティアドバイザリも重要な情報源です。ベンダー自身による詳細な説明やパッチ情報、対応手順が提供されており、実務的な脆弱性対応に直結します。国内外の主要ベンダーの情報を定期的に確認することで、最新の脆弱性に迅速に対応することが可能です。
リンク:情報処理推進機構(IPA)
リンク:JPCERTコーディネーションセンター(JPCERT/CC)
これらの情報を単独で利用するのではなく、複数のデータベースを組み合わせることで情報漏れを防ぎ、脆弱性対策をより精度の高いものにできます。
4:脆弱性情報の詳細確認と評価
脆弱性情報を収集しただけでは、実際の対策にはつながりません。情報の正確性や自社システムへの影響を確認し、優先度を判断することが重要です。本章では、脆弱性情報を確認する際のポイントと、評価の基準や手法について解説します。
脆弱性情報の確認ポイント
収集した脆弱性情報を確認する際は、まず自社で利用しているシステムとの関連性を確認します。脆弱性が自社のOSやアプリケーション、ネットワーク機器に影響するかどうかを把握して、影響範囲も確認します。攻撃が成功した場合に情報漏洩、システム停止、サービス停止などの被害が、どの程度発生するかを見極めます。さらに、修正方法や回避策の有無も確認します。パッチの有無や設定変更で対策可能かを整理し、実施可能な手順を明確にしておくことが必要です。
脆弱性評価の基準と手法
脆弱性の優先度を判断するには、標準化された評価基準が有効です。国際的には、CVSS(共通脆弱性評価システム)が用いられ、攻撃の容易さや影響範囲、機密性や可用性への影響などをスコア化します。スコアが高いものはより深刻度が高く、優先的に対策すべき脆弱性として扱われます。
CVSSによるリスク評価とCVEを用いた脆弱性識別
CVSSは脆弱性の深刻度を数値化する仕組みで、スコアは0.0から10.0までの範囲で示されます。スコアが高いほどリスクが大きく、例えば9.0以上の脆弱性は「緊急対応が必要」と判断されることが一般的です。CVSSスコアと各脆弱性を識別するCVE番号を組み合わせて管理することで、システム管理者は「どの脆弱性が最も危険で、優先的に対応すべきか」を効率的に判断できるようになります。たとえば、複数の脆弱性が見つかった場合でも、スコアの高いものから順にパッチを適用することで、リスクを効果的に低減することができます。
| CVSSスコア | 深刻度 |
|---|---|
| 9.0~10.0 | 緊急 |
| 7.0~8.9 | 重要 |
| 4.0~6.9 | 警告 |
| 0.1~3.9 | 注意 |
| 0 | ー |
5:脆弱性診断と対策の重要性
脆弱性情報を収集・評価した後は、実際に診断を行い、具体的な対策を講じることが重要です。本章では、診断の必要性と種類、そして不正アクセスが発生した場合の具体的な対応手順について解説します。
脆弱性診断の必要性と種類
脆弱性診断は、システムやネットワークに潜む脆弱性を実際に確認するプロセスです。診断を行うことで、情報収集だけでは把握できない潜在的な弱点を明確にし、優先的に対策すべき箇所を特定できます。
診断の方法は大きく分けて 自動診断 と 手動診断(ペネトレーションテスト) の2種類があります。自動診断は、スキャナーを用いて短時間で広範囲をチェックできる一方、誤検知や見落としが発生する可能性があります。手動診断は専門家が攻撃を模擬することで、自動ツールでは検出できない脆弱性を洗い出すことができます。両者を組み合わせることで、より精度の高い診断が可能となります。
不正アクセス時の対策手順
万が一、脆弱性を突かれて不正アクセスが発生した場合には、迅速かつ組織的な対応が必要です。まず、被害の範囲を特定し、影響を受けたシステムやデータを隔離します。次に、ログ解析や診断ツールを活用して侵入経路を特定し、脆弱性を修正します。また、パッチ適用や設定変更など、再発防止策を直ちに実施することも重要です。さらに、社内の関係部門や経営層と連携し、インシデント対応プロセスを明確化しておくことで、将来的な攻撃にも迅速に対応できる体制を整えることが可能です。こうした一連の流れを確立しておくことが、脆弱性対策を継続的に機能させる上で不可欠です。
脆弱性診断を自動化するツールの活用もおすすめ
脆弱性情報は量が多く、更新も頻繁なため、人の手だけで管理するのは難しいです。そこで、自動化ツールやIT資産管理ツールを活用することが効果的です。たとえば、IT資産管理ツール「ISM CloudOne」では、独自の辞書と端末から収集した情報を照合し、パッチがまだ適用されていない端末を一覧で確認することができます。これにより、管理者は優先的に対応すべき端末をすぐに把握でき、対応の漏れを防ぐことができます。
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6:まとめ
脆弱性情報の収集は、サイバー攻撃から企業を守る第一歩です。CVEやJVNなど信頼できる情報源を押さえ、社内での確認・共有体制を整え、自動化ツールを活用することで、迅速かつ効率的な対応が可能になります。重要なのは「知るだけで終わらせず、実際の対策につなげること」です。
脆弱性情報を収集することと併せて今日からできる取り組みとしては、
- 自社システムの棚卸し
- 担当者の明確化
- ルールの明確化
- ツールを活用した自動化
この4つを意識するだけでも、脆弱性対策の精度は大きく向上します。攻撃者より先に情報を把握し、先手を打つことが被害防止につながります。
